春宵十話 - 岡潔

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

長く読まれているようだけれど、僕は今回初めて読んだ。と思う。ちょっと既視感があるけれど、たぶん気のせい。
最近新潮文庫からでた小林秀雄との対談「人間の建設 」を読んだのがきっかけ。ことばの使い方が独特でもっと読んでみたくなった。ちなみにこの「人間の建設」もとても面白い。今ならどこの書店でもすぐに手に入るしおすすめ。

この「春宵十話」は、岡潔が話したことを文章にまとめたもの。それはないだろう、という発言もたくさんあるのだけれど、岡潔の正直さが心地よくて、とてもよい気分になる。

春の野に咲くスミレはただスミレらしく咲いているだけでいい。
咲くことがどんなによいことであろうとなかろうと、それはスミレのあずかり知らないことだ。
咲いているのといないのとではおのずから違うというだけのことである。

存在を全肯定していると勘違いしてしまうかもしれないけれど、そういう文脈じゃない。でもそういう勘違いとして受け取っても気持ちいい。

職業にたとえれば、数学に最も近いのは百姓だといえる。種をまいて育てるのが仕事で、そのオリジナリティーは「ないもの」から「あるもの」を作ることにある。数学者は種子を選べば、あとは大きくなるのを見ているだけのことで、大きくなる力はむしろ種子のほうにある。

この後、物理学者は指物師だ、と続く。

戦争中を生き抜くためには理性だけで十分だったけれども、戦後を生き抜くためにはこれだけでは足りず、ぜひ宗教が必要だった。その状態はいまもなお続いている。
宗教はある、ないの問題ではなく、いる、いらないの問題だと思う。

いる、いらないの問題。僕はまだいまのところはいらない。

しかし、春のぽかぽか陽気にのろうと昨日読み出した訳だけど、読み終わった今日の寒いことよ。気温差15度ってどうなんだ。