本の天地

弟からの電話がちょっと面白かった。
弟と電話で話すのは年に数回。直接あって話すのも数回。まあ合計8時間/年といったところか。そのうちの5分がこんな会話だった。

  1. 新刊書店で小説を買った。
  2. 買って帰って、天地が茶色くなって汚いことが気になりだした。
  3. 店に持って行って代えてくれといったら、もう在庫がないからしばらく待ってくれといわれた。
  4. 連絡があったので取りに行くと、天地が縮んで表紙がはみ出している。こんなんならブックオフで買うといって帰ってきた。
  5. なんだか腹が立ったので版元の幻冬社に電話した。あきらめてくれと言われた。
  6. アニキ、これはそういうものなのか?


出版社は書店から帰ってきた本の天地をヤスリで削ってまた出荷するんだ。そういうのをなんども繰り返している本だと天地が縮んでカバーからはみ出したりする。まあよくあることだ、と教えてやった。

手垢のついていないきれいな本を読みたいから、ブックオフじゃなくて定価で新刊書店で買ってるのに、とあんまり納得した様子はなかった。そんな繊細なところがあるとは。ちょっと意外に思ったね。

古本ばんばん買ってるアニキとしては、へえー、そんな風に思うのかとも思った。
そういえば、先日嫁の父がうちに泊まりにきたときに、積ん読してある本を貸したらずいぶん恐縮されたことがあった。
そういう感覚を持っている人は結構世の中に多いのかもしれないな。
でもね、そもそも新刊書店に並んでいる本の全部が全部、印刷工場から出てきたそのままなんてことはないよ。

新刊本の流れは意外と知られていないのかもしれない。ちょっと単純化し過ぎだけど、だいたいこんな感じ。

  1. 印刷会社で出来上がった本が取次会社(本の問屋;以下取次)に搬入される。一部は出版社の倉庫に入る。
  2. 取次が全国の書店に配達する。たいていの場合どの書店に何部配達するかは取次が決める。
  3. 書店は取次から届いた本を棚に並べる。どんどん取次から本が届くので、前に並べた本は取次に返品する。
  4. 書店から返品された本は、取次が出版社の倉庫に持って行く。※1
  5. 出版社は、取次から戻ってきた返本を取っておく。
  6. 書店から注文が入ると、最初に取っておいた印刷したての本があればそれを出荷する。なければ、取っておいた返本を改装(※2)して取次を経由して出荷する。
  7. 書店から読者の手元へ。

※1 実は返本の処理はトーハン以外の大手は出版共同流通株式会社がやっている。で、この会社、出版不況にも負けずに(というか追い風を受けて?)、ばんばん売上げて利益を上げている。
※2 「改装」は、カバーを代えたり、本の天地を紙ヤスリで削ったり、消しゴムできれいにしたり。

再販制度のおかげ(せい?)で、普通の商品ならアウトレットに並ぶものが、新品と同じ棚に並ぶ。まあそのへんが、普通の大部分のライトな読者には一般的な感覚ではないのかもしれない。